白ワインビネガーを使った料理
テーブル・トーク 長谷川 幸太郎氏インタビュー
2002年にオープンした丸ビル最上階にあるレストラン「サンス・エ・サヴール」料理長、長谷川幸太郎さんのインタビュー第3弾。 今回は、マイユの「白ワインビネガー」を使った料理について伺いました。
料理長になられて5年。お店のメニューは、どのように開発されているのですか?
ベースには、フランスの「ジャルダン・デ・サンス」のレシピがあります。でも、それをそのまま作るのではなく、僕なりのアレンジを加えていますね。たとえば、フランスエビを使っているレシピがあったら、それを蟹に変えてみたり、真鯛のレシピだけど真鯛のない時季だから鱸にしてみたり、盛り付けを自分流に変えてみることもありますよ。オーナーのジャック&ローラン・プルセルは、僕が本店のコンセプトをしっかり理解していることがわかっているし、僕の目指す料理のスタイルは彼らと同じ。だから、僕が日本的な感覚でアレンジを加えることも認めてくれています。
今回は、マイユの白ワインビネガーを使ったメニューを作っていただきました。器もユニークで、一見して「何だろう?」と思わせる楽しげな一皿ですが…。
実は、この器、もともとは花器として売られていたものなんですよ。2段に別れたガラスの器の下段には岩海苔のジュレ、上段には雲丹のロワイヤルをヴルーテにしたもの。食べるとき2つを混ぜて味わっていただきます。白ワインビネガーは、下段に入っている岩海苔のジュレに使っています。僕はもともと、酸味が大好きなので、お店の料理にもいろいろなビネガーを使います。料理に酸の酸っぱさを少し加えると、それが生きて料理全体が締まる。白ワインビネガーやシェリービネガーの酸味は、酸をフレッシュなまま使うときに活躍しますね。
フレッシュなまま使う以外に、ビネガーを効果的に使う方法はあるのでしょうか。
フランス料理では、よく、ビネガーを加熱し、煮詰めて使いますね。これは、本場フランスで見た料理なのですが、生のフランボワーズにマイユのバルサミコとフランボワーズビネガーを加え、1時間ほど蒸すんです。どうして蒸すのかは、正直、よくわからないんですけどね(笑)。蒸し上がったフランボワーズソースを、柔らかく煮たオックステールと牛肉のジュレ、ジャガイモのムースにかけて食べる。これがもう、めちゃくちゃおいしいんです。ビネガーの酸は、煮詰めるとコクに変わります。もし、ご家庭でフレンチの味を作りたいなら、100ccのビネガーをティースプーン1杯くらいになるまで煮詰め、バターと塩コショウを加えてソースにして、焼いた魚介類にかけてみて下さい。きっとプロの味を体験できると思いますよ。
フランボワーズ、牛肉、じゃがいも…。本場フランスの料理は、意外性に満ちている感じがしますね。
まったくそうなんです!ひと目見ただけでは何なのかよくわからない…。何でこのふたつの食材を組み合わせるのかわからないし、組み合わせたときの味が想像できない…。でも、食べてみると、今まで味わったことがないような感動がある。フランス料理は、まさに「エトネ!(驚き)」の連続なんです。僕は、お客様に常に「エトネ!」を与える料理を作り続けたい。そう思っています。今回作った料理もそう。さっき「一見して"何だろう?"と思った」って言ってくれましたよね。実は、すごく嬉しかった。それが「エトネ!」なんです。
でも、「エトネ!」を与える料理を考えるのは、非常に難しそうですね。
そりゃもう、苦しいです(笑)。はっきり言って24時間新しいメニューのことを考えています。見た目で驚かせても、味がいまひとつなら「まずい!」で終わりですからね。若いスタッフによく言うのですが、「料理人は、考えて食べろ」。おいしいものを食べたら「何が入っているのかな?」と考える。食べて物足りないと思ったら「何を加えればいいのかな?」と考える。そういうクセをつけることが、料理人として成長するための条件だと思います。それからね、僕は、昔から毎日、続けていることがあるんですよ。それは、1日5分でもいから料理の本を見ること。新しい本でも古い本でも何でもいい。休憩時間や寝る前に、料理の本を見ることを、半分、義務化しているんです。リラックスした時間に料理のことを考えると、不思議とフッと入ってくるものがあるんですよ。
最後に、今後の夢があったら、教えてください。
ごく具体的な夢は、「ミシュランガイド」に載ること。今年は、残念ながら星をもらえませんでしたから。フランスの本店が2ツ星とういうことも、もちろんあります。でも、それ以上に、ミシュランの星には料理人としてやはり憧れがあるんです。フランスで修業した先輩たちも、みな、この星を目指して働き、感性を磨いてきたと思います。「星」は常に輝いている存在。星付きレストランは、「これからもずっと輝いてください」という評価をもらった店なんだと、僕は考えます。お客さんが増えるとか、名誉になるとかではなく、料理人・長谷川幸太郎と一緒に力をくれるスタッフへのご褒美、勲章として、星をもらえたらいいな、と思いますね。そして究極の目標は、80歳になっても、料理を作り続けること。そう考えると、今の自分はまだまだ未熟です。もっと勉強し、刺激を受け、それを楽しみながら進化していけたら、最高ですね。



