第4回 セーヌ源流
サ マータイムに切り替わり、長かった冬ともおさらばです。ぶどう畑も街も緑の葉に覆われ、爽やかな季節が巡ってきました。ディジョンの街では冬眠から覚めた 人達が、太陽の光を求めテラス席を陣取り、お喋りに花を咲かせています。今日はディジョンの街をちょっと離れ、お出掛けをしてみましょう。
皆さんセーヌ川はご存知ですか?
パリの中心を優雅に流れる河の姿はきっと何処かで目にされたことがあると思います。全長776kmのセーヌの源流が、パリから300km離れたここブル ゴーニュ、ディジョンの北西約30kmのところにあるのです。地図上の「La source de la Seine(セーヌの源流)」を目指してディジョン市内から車で約30分。それは人気のないひっそりとした森の中にありました。
小さな看板があるだけで、よく注意していないと見過ごしてしまいそうです。車を降り、少し斜面を下ると森が開け、小さな野原が広がります。そこを幅 20cm程の小さな川が流れており、流れに沿って歩いて行くと、すぐに川は姿を消し、雨上がりの草原のような水溜まりが辺りを湿らせ、やがて小さな沼を 作っています。よく見ると、透明な水を張った沼に生えているのはクレソンです。その先に洞窟のような祠(ほこら)がある以外は何もありません。洞窟の中に は湧き出た水が静かに泉をつくり、中央には白い女神の像が置かれています。脇にここがセーヌの源流であること、この像がセクアヌ女神であること、ナポレオ ン3世が設置したことなどが書かれていました。
セーヌ川の華やかなイメージとはあまりにもかけ離れた静ひつな空間。やがてこの流れが大河となってパリを抜け、英仏海峡に注ぎ込むのです。
ここで感じた空気がなんとなく神秘的に感じ、家に帰って調べてみると、かつてここにセクアヌ女神を奉った神殿があり、紀元前1世紀ごろから多数の巡礼者が 訪れ、「セクアヌ女神の泉」として信仰されていたことが分かりました。セクアヌ女神は古代ヨーロッパに住んでいたケルト族の治癒の神様で、セーヌの語源に もなっています。セーヌ川が「La Seine」とフランス語では女性名詞なのもそのためかもしれません。怪我や病気をした人々は奇跡を求め、この泉の水で身体を清め、着ていた衣服の一部 や、巡礼者をかたどった像、怪我をした部位の模型や貢物をこの泉に沈め、回復を祈ったのだそうです。木や金属、石で出来た多数の巡礼者の像や財宝が神殿跡 と共に18世紀中頃に発見されました。中でもブロンズ製のセクアヌ女神像は「セーヌの財宝」と言われるほど貴重なものと言われています。現在これらの一部 がディジョンの考古学博物館で見ることができます。
セーヌ川の源泉は歴史の源でもあったのですね。今は静かな森の中に湧き出る小さな泉ですが、当時に思いを馳せて眺めてみると、また違った景色に見えてくることでしょう。
文&写真:ディジョン在住 新村 良子
6月のぶどう畑
源流の沼
セーヌ源流
セクアヌ女神



