第3回 朝市の誘惑
本格的な寒さが押し寄せるこの季節、夜も8時を過ぎると人通りもぷっつり途切れ、オレンジ色がかった街灯と家々からの暖かい光が、静まった中世の町並みを照らします。今年は早くから気温が下がり、0℃以上の日だと「今日は暖かい」と感じるようになってきました。
そんな中、人々の楽しみは、なんといっても「食べること」。猟が解禁され、鹿やウサギ、うずらや雉などのジビエ料理が食べられるのも秋から春のこの時期ならではです。
朝市は幸せをもたらしてくれる貴重な存在。ディジョンの朝市は、街の中央の会場一帯で、週に4日、朝から昼にかけて大規模に開かれます。市場の建物は、 ディジョン出身の建築家、エッフェルの弟子が設計したものと言われており、エッフェル塔と同様、鉄筋を美しく取り入れた構造で、上から見ると十字架形に なっています。かつてここに教会があったのがその所以なのだとか。
さて、どうやって美味しい食材を選んで買うか?これは真剣勝負です。スーパーは沢山あっても、特に新鮮な魚介類、野菜を手に入れるには、少々値は張っても 朝市より他はありません。野菜や鶏、肉、きのこ、フォアグラなどはディジョン近郊産が多く、土が付いた、朝採れたものなど鮮度の高いものばかりです。作り 手自らが売っていることが多く、言葉にも説得力があります。そんな店が200軒ほども並ぶ朝市で、どの店の商品がいいかを見極めるのは結構大変。私の必勝 法は、寒くても早起きして行くこと。朝は気温が零下から2、3℃位のことが多いのですが、早いと何がいいのかというと、食材がたっぷり並んでいるのはもち ろんのこと、同じような食いしん坊のディジョネ達が目当ての店に列を成して並んでいることです。
9時過ぎには消えてしまうこの列、並ぶ人数の差は一目瞭然です。沢山の人が待っている店は、季節のとっておきの食材が新鮮で安く入っているか、いつもいい 品質の品揃えをしているかのどちらかで、一番確実な見極め方法なのです。例えば冬のごちそうの牡蠣。値段は1ダース4.5ユーロから9ユーロまでと大きさ 毎に変わりますが、産地や店、見た目による大差はありません。人が一番群がっているお店で買うとやはり、他の店より断然美味しいのには驚きました。それは 肉も同じ。
最近、もう一つメリットを発見しました。それは、売り手と買い手の連帯感です。耳が痛く感じるような寒さの中、朝早く買い物籠をぶら下げ朝市に行くと、い くら屋根で覆われていても凍えそうな寒さです。客はお店の人に対して、こんなに寒いのに大変そう、と感じますし、売り手はこの寒い中よく来てくれたと思っ てくれるようで、寒さに耐える者同士の連帯感が芽生え、親しみが湧いてくるのです。店の人の対応も違います。こっちの海老の方が新鮮だからと奥からとって おきの海老を出してきてくれたり(値段は同じ)、レモンがおまけでこっそり袋に入っていたり、お薦めの肉をいろいろアドバイスしてくれたり、取り置きして おいてくれたり。顔を覚えてもらいやすいのもメリットの一つでしょうか。逆に昼過ぎに行くと、どうでもいいような扱いを受けるのは気のせいではない…はず です。朝市で幸せな気分と充実感に浸って帰るのもこの頃の楽しみです。
文&写真:ディジョン在住 新村 良子
冬のディジョン
鉄筋を美しく取り入れた朝市会場
ぶら下げられたウサギ
冬場だけやってくる牡蠣屋さん



